第四回泊まり込み制作 画龍点睛編 |
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作業はクライマックスへ。二度塗り開始です。一度目はとにかく塗ってみたという印象でしたが、今度はじっくり 検討しながら進めなくてはなりません。じわじわと存在感を増してくるのが龍です。この龍はアボリジニの神話にあ る“虹の蛇”を表していて、身体が七色に塗り分けられます。虹の色の順番をご存じですか?紫→藍→青→緑→黄 →オレンジ→赤とグラデーションしていきます。今回の自然塗料には真っ赤と真っ青がありませんので、正しい七色 は作れませんが、民族によって虹の色が違って見えているそうですから、なんでもありってことですよね! 一番難しいのが紫です。本来は青と赤を混ぜればできるはずですが、やってみると渋い藍色になってしまいます。 あれこれやった後、苦肉の策で白を加えてみるとはんなりとした薄紫色に。イメージとは違うけれども一応紫だろう ということで、一度目を塗りました。しかしなんとも頼りない色です。龍の肩を占める虹の一番目の色には、もっと 安定感のある色がほしいものです。こんな時は色作り職人ピクシーの出番ですね!二度塗りの為に気持ちも新たに紫 を作りなおします。いざ!と始めてみるとあら不思議。青と赤を適当量混ぜ合わせただけで、美しい紫があっさりと できてしまいました。店主に褒められてつい得意になってしまいましたが、本当はわたくしもどの割合が正解だった のか分からずじまいなのですが…まあ内緒にしておきましょうか。
龍の身体には黄道12宮の文様が刻まれています。それは銀に見えるように薄灰色にしてみました。 胴体部分は四大元素の絵の後ろ側を通っています。ですから絵の裏で色が入れ替わると、バラバラの色の切れ端に 見えてしまいます。我々から見える位置で色が切り替わるようにしないと、連続性のあるものだと認識されないかも しれません。実際に胴体の一部を指さして「これは何ですか?」と聞いた方がいらっしゃいます。とほほ…。 皆様、いつかマニ車の実物をご覧になる時は、あまり近くへ寄りすぎないで龍の全体が見渡せるくらい離れて見て くださいね! このように七色に切り替わる位置も重要ですが、隣り合っている四大元素の背景と同色にならないように注意する 必要もあります。このように深い深〜い計算があって色決めがなされているのです!といいたいところですが、この 理屈は塗っていくうちに、後から気づいたことばかりです。結局いつもの“出たとこ勝負戦法”でございました。 顔の基本色は緑にして統一感を出すことにしました。力のある目にしたいものですがどうしたらよいでしょうか? 底光りのする白目、艶やかな瞳。目指すイメージはそんな感じです。とにかく龍のお顔を塗るのはかなりの気合いが 必要です。作業の前には必ず手を合わせます。きれいなガラスの器に水を張ってお供えするようになりました。ここ のところ部屋の空気がビリビリと微振動しているような気がします。店主は毎晩龍の夢をみてグルグル回っているそ うです。とうとうわたくしまでぐっすりと眠れなくなってしまいました。もう寝ても覚めてもマニ車状態!
実は店主は彫りの後半から右手と右足が急に腫れてきて、塗りの頃には歩くこともままならなくなりました。これ までの塗りの作業は総て左手で行っていたのです。もの作りには時にこういう不思議なことが起こるものです。ギリ ギリに高まった緊張感が切れてしまうのが先か、マニ車が完成するのが先か、本当にきわどい中で作業の最終日を迎 えました。 ところがこの日農場では醤油仕込みの会があり、50人近い人々が集まりました。こちらが作業中ということで、み なさん気遣ってくださり大変ありがたかったです。しかし!子供たちが塗りたてのペンキを触りたがる、触りたが る!見張りに立って警護したりして大騒ぎです。 最近ずっと続いているビリビリとした通奏低音の上に、たくさんの人の織り成す人いきれ。外は突風のゴーゴーと 吹き荒れる激しい空模様。なんだか頭がクラクラしてきました。そんな中でも急き立てられるような緊張が続き、手 が休められません。いつのまにか人の気配も意識にのぼらなくなり、静かな集中のなかで作業に没頭していきまし た。龍の尻尾には?(せつ)という造形があります。ハスの花の形をしており、古代の龍の尻尾にはこの造形がみら れるそうです。その横に店主の落款を入れさせていただきました。
いつしか人が引き始め、最後にありがたい励ましのお言葉を残して皆様お帰りになられました。急にやってきた 静けさの中。振り返るといつの間にか作業が終わっていたのです。店主はもう放心状態。今でもこの時のことはよく 覚えていないとか。わたくしはじんわりと感動してなんだか泣けてきそうな気持ちでした。 くったくたで何もしたくない気分ですから、ありあわせの物とビールでささやかに乾杯です。こんな時に卑近な話 で申し訳ありませんが、手持ちの食材もちょうど尽きかけてきて、これ以上作業が伸びたらどうしようかとドキドキ していたところでした。お茶の時間に欠かせないチョコパイも残りあとわずか。ホビット顔負けにお茶好きの店主に は、お茶菓子の有無は大変重大な問題なのであります。 翌日は朝から猛然と掃除に取り掛かります。数日前から夜になると本当に家に帰れるのかと不安になってしまうの です。その不安を振り払うように帰るぞ〜!と気合いを入れていますから、掃除も鬼気迫るものがあります。部屋が 整ったところで、最後の仕上げ「画龍点睛」です。店主の足の腫れは徐々にひどくなり、高い場所の作業が難しく なっていましたが、無事台に上ることができました。瞳が黒々してくると目に迫力が出て、顔の印象が全く変わりま した。やはりこの儀式は必要だったなとしみじみしていると、迎えに来てくださったIさんの車がちょうど農場に 入ってきました。ちゃんと目を入れて完成させないと、家にも帰れないような気がしてくるから不思議です。 残り三つのチョコパイでIさんと共にコーヒーを飲みながらマニ車を眺めます。は〜本当に終わったのですね。 Iさんのお手伝いのお蔭で撤収作業も終了。なんとか12日ぶりに家に帰ることができました。 延べ作業日数27日、145時間をもって完成です!でもこれ店主の作業時間だけですよ。わたくしの分を入れたらど れだけになるか!まったく、何かおいしいものでも御馳走してもらわないことには割に合いません! あゝ、でもとにかく今は懐かしの我が家で朝までぐっすり眠りたい…。
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