版画工房フェンリル通信       




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  こんにちは!ピクシーです。

 今日は「版画工房フェンリル通信」についてお伝えします。 今月で19回目となりますが、毎月発行するとなると

 なかなか大変。店主がなんとか頭をひねって書いております。内容はその回のテーマに合わせて版画が一枚取り上げ

 られて、そこに描かれている精霊にまつわるお話や、甲信地方の伝承と世界の伝説との共通性から、人の意識の持つ

 普遍的なテーマを探る、というなかなか壮大なお話です。例えばわたくしピクシーが取り上げられた第5回大暑号を

 見てみましょう。



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  ふむ、白黒のわたくしも悪くありませんね!まるでかわら版のような古風さで、A3用紙にみっちりと書き込まれ

 ております。どれどれ少し読んでみましょうか。


  ピクシーの特徴は 日本の化け狐ととてもよく似ています。草むらから顔を出した狐の様相は、赤い髪と尖った耳

 に緑の服のピクシーを連想させますし、人に憑 いて迷わせるといった騙し方もそっくりです。もしかすると富士見町

 の狐話も、半分くらいはこのピクシーのせいか もしれません。


  ちょっと、ちょっと!なんでもわたくしのせいにしないでくださいまし。でもわたくしがイングランドで人を騙し

 た数々の武勇伝と、富士見町の狐のお話がそんなに似ているなんて不思議ですね。


  ピクシーや狐の悪 戯といったものにはどこか愛嬌があります。それはなぜでしょう。思うに彼らは、我々人間が

 作り上げた自己像のずれに入り込む存在だから ではないでしょうか。


  ふむふむ、なるほど。我々精霊や妖怪の物語の共通性から、人間の意識の持つ普遍的なテーマを導きだそうという

 わけですね。いささかこじつけの感はありますので、論理性・厳密性を大切にされる方には納得しかねる話かもしれ

 ませんが、ひとたび常識のタガをはずしてみればすんなり納得してしまい、不思議世界へいらっしゃいませ~となる

 こと請け合いでございます!

  しかしこれ、決してふざけて書いているわけではありません。店主は図書館の隅に埃をかぶっている古い民話集な

 どを読み漁り、民俗学や文化人類学の怪しい本を買い集めては素材の収集に励んでおります。そして、実際に伝承の

 地を訪ねては、石祠の前でインスピレーションを得たりするわけであります。

 

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  世界の伝説と日本の民話には驚くほど同じモチーフが含まれているとか。数え上げればきりがないほど列記したい

 物語がたくさんあって、推敲するのに苦労しています。そこへ登場するのがこのわたくし。店主の思い入れたっぷり

 の文章をバッサバッサと切ってしまいます。ひどすぎる~!ここが一番の見せ場の文章だったのに~!と店主がのた

 うちまわっておりますが、あんまり思い入れの強い文章って読みづらいんですよね。あ、がっくり倒れ込んでいた店

 主が起き上がってきましたよ。おもむろにパソコンに向かって手直し作業を始めます。ここが一番つらい時です。で

 も自分の思い入れを捨てて、こなれてから出て来た文章は、断然すっきりとして読みやすくなります。



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  では日本の昔話“さえもん五郎と狐”を例にした一節を。気の強い“さえもん五郎”が、あっさりと狐に騙されて

 しまうお話です。

 

  我々はいつのまにか自分の姿というものを勝 手にイメージして生きています。制服を着て仕事をしていると、自分

 という人間がその制 服と同じ人格を有している と勘違いしてしまうように。“さえもん五郎”の場合「おれは簡単に

 騙されるような愚か者じゃない」という自分の 像を心の中に持っていました。その自己像が狐に騙される原因だった

 のです。この不自然な自己像をぶち壊して、本 来の自分の姿を外に開放するのがピクシーや狐たちなのです。気が

 強くて賢いという自己像を持っていた五郎が、 「愚か者でもいいんだな」と思えるようになるまで狐は騙し続けるこ

 とでしょう。“冴え”もん五郎は愚かもん五郎 でいいのです。


  悪戯好きの狐やピクシーはいつも悪者扱いですが、こんな風に書かれるとなんだかくすぐったいような、え?ほん

 とですか?という気もしますが、不思議と納得してしまいます。こんなふうに我々精霊や妖怪が、常識のタガを外す

  ためのトリックスターとして登場するわけです。そこには良いも悪いもない、混沌として自由な世界が広がっていま

  す。



       

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  さあ、推敲したした文章がなんとかぎりぎり紙におさまりました。それをなんと!はさみで切ったり、糊で貼った

 りと、超アナログな作業であの体裁にするのですね。このデジタル時代に信じられませんが、これらの手作業により

 懐かしいような不思議な雰囲気が作られているわけです。



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  「版画工房フェンリル通信」をこれからもっと多くの方に 読んでいただきたいですね。でもかわら版のように、紙

 に刷られているこのテイストを大切にしたいという店主の意向で、HPに載せたりメール配信する予定はありません。

 ですから図書館やお店に置いていただく以外はなかなか新しい読者の手元に届かないのが現状です。

  敢えて狐やピクシーに騙されてみたくなったあなた!ぜひ一度メールにてお問い合わせくださいませ。

   

 

       

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